横浜家庭裁判所 昭和40年(少イ)15号 判決 1965年9月30日
被告人 小川好子こと金基点
主文
被告人を罰金一万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二百五十円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は横浜市中区福富町西通り三一番地の一二において、自己名義で許可を受けトルコ風呂「トルコヘルス横浜」を夫権乙孝とともに経営しているものであるが、同営業所支配人下平光夫において右被告人の業務に関し、法定の除外事由がないのに、昭和四〇年二月五日頃から同年三月五日頃までの間、年齢を確認すべき注意業務を怠たり、当時十八歳に満たない児童である○川○○子こと○井○美(昭和二二年七月二〇日生)をいわゆるトルコ嬢として、右期間中殆んど午後七時頃から午前三時頃までの深夜に亘り、前記営業所の個室において、同女がショートパンツと乳バンドのみの姿で、全裸で入浴の男客の身体の洗い流し、マッサージ等をさせるため使用して稼働させ、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつてこれを自己の支配下に置いたものである。
(証拠の標目)<省略>
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は「トルコヘルス横浜」の支配人が○井○美をトルコ嬢として使用するに際し提出された履歴書に同女の年齢が二十歳と記載されており、且つ同女は当時既に男性と同棲生活をしていて、その容貌、体格から二十歳であると信じたものであつて、住民票等を提出させなくても年齢確認の点に過失がないと主張する。
しかし、右のように○井○美をトルコ嬢として使用するに際し、単に同女の供述又は身体の外観的発育状況のみによつて同女が満十八歳以上に達しているものと判断し、さらに客観的な資料として戸籍抄本、住民登録票等を閲覧しその他父兄等について通常可能な正確を期する調査方法を講じて同女の年齢確認の措置を採つた形跡の認められない本件の場合、同女の使用主がその年齢を知らなかつたことについて過失がないとはいうことはできないから、右主張は採用することができない。
次に弁護人は「トルコヘルス横浜」が○井○美を使用した関係は児童福祉法三四条一項九号の「児童に対する支配が正当な雇用関係に基くもの」であると主張する。
よつて、審按するに右法条部分の趣意は雇用関係が民法及び労働基準法に照し正当なものである場合と解すべきところ、トルコ嬢○井○美と使用主との関係は同女が労務提供の報酬として使用主から給料を受ける代りに浴客から手数料を受ける民法の雇傭契約に準ずる契約に基くものというべきであるが、本件トルコ嬢の業務は労働基準法六二条六三条にいう十八歳に満たない女子を深夜業及び福祉に有害な場所に就業させることの禁止に違反しているものと認められるので、前記児童福祉法三四条一項九号にいわゆる正当な雇用関係に基くものということはできないから、右主張も亦理由がない。
(法令の適用)
児童福祉法三四条一項九号、六〇条二項、三項、四項
刑法一八条
(裁判官 田中寿夫)